KeiYamamotoの雑記

考えたことや見て聴いたことを綴ります

スダーンのシューマン

スダーン指揮東京交響楽団シューマン交響曲全集(マーラー版)について書く。マーラー版の独特な表現はシューマンの音楽の活力のある側面を浮き彫りにすることに成功している。

第1番からスダーンの世界が広がる。第1楽章主部から飛ばすが、決して雑にならず東響を引き締める。第2楽章の豊かな音の立ち上がりが一番の聞きどころかもしれない。終楽章は鬼のような追い込みだが、快活な曲によく合った解釈だとは思う。

収録順で第4番。冒頭から艶やかな弦が美しい。内容としては厳しい音楽だが、スダーンは一切手加減しない。主部に入っても弦楽合奏の美しい響きは続く。ここまでの美と厳格さが織り交ぜられた音楽はなかなか聴けない。第2楽章の中間部、私は勝手に月光の音楽だと思っているのだが、分け入るようにヴァイオリンソロが聞こえてくる。楽器間のバランスは適切で、スダーンの力量が垣間見える。

第2番になると、暖かく膨らみのある音楽は通常稿と同じだが、スダーンの手にかかると快活になる。通常稿に慣れていると違和感もあるが、楽しく聴くことができる。1番に引き続き明るい第4楽章は速めのテンポ。かなりカオスだが、これがマーラーの意図した響きの再現だとしたら、マーラーの音楽基礎能力の高さに恐れ入る。

最後は第3番。一番マーラーの意図が反映されそうな内容の曲だが、通常稿の完成度が高いためその必要は薄いようだ。スダーンは最初から最後まで曲の全体を俯瞰して構築する。

マーラー版は色眼鏡で見られがちだが、スダーンはマーラーを通した19世紀末のシューマン像の組み上げに成功している。スダーンの演奏には今後も注目が必要である。