KeiYamamotoの雑記

考えたことや見て聴いたことを綴ります

インキネン/日フィル

インキネンは有終の美を飾ることになった。インキネンの日フィル首席指揮者としての最後のプログラム。心してみなとみらいホールへ。5月は第九初演の月であるため、第九を演奏するにはふさわしい時期である。初演から199年経つことになる。

第九の前にシベリウスの《タピオラ》。この時点で日フィルの気迫は普段と違った。弦の鳴りがいつもの1.5倍くらいなのだが、内声が際立って聞こえる。対向配置により、2ndヴァイオリンとヴィオラがより一層自律的になり、高い自由度を持って演奏できていた。Vaは安達首席が率いる時に最高に輝くようだ。

休憩を挟んでベートーヴェンシベリウスの空気感は維持したまま、演奏が始まった。まろやかな音で奏でられる音楽。しかし後半に向かうにつれてオーケストラの気迫と熱量が高まる一方であった。第3楽章第2主題では、2ndヴァイオリンとヴィオラが清らかな歌を奏でるが、ここまで芯が通った音になるのも珍しい。第4楽章になると、楽団員の表情は一層真剣そのものになった。怖いくらいである。強力なソリストが揃っていたが、アルト池田の声は際立って聞こえる。ヴァーグナー歌手はやはり一味違う。合唱も健闘し、一人も欠けることなく全員で最後までやり通した。

合唱の配置はSBTAで、対向配置のオーケストラと揃えてあった。それにより音が適度にブレンドされて届いていた。瑣末な話だが、ソリストの配置はSATBであった。何故これは揃えなかったのかは疑問。

これだけの熱量で演奏しただけはあり、客席は沸き立っていた。楽団員は皆、満足そうで、泣きそうで、寂しそうであった。こんな反応の楽団員たちは見たことがない。インキネンのソロカーテンコールではコンマスの田野倉が花束を手渡した。帰り道もお客は口々に良かったと言っており、このような締めくくりを迎えられたのは一定期会員として心底嬉しい。インキネンの退任記念にふさわしい、見事な演奏であった。

一点気になるのは、来シーズンにはインキネンが登壇しないことである。今後とも共演は続けて欲しいと、切に願っている。