KeiYamamotoの雑記

考えたことや見て聴いたことを綴ります

ブロムシュテットについて

指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットは95歳の大ベテランである。先日怪我から復帰して再び舞台に現れている。そんなブロムシュテットだが、その音楽は多くの人に愛され、評価されている。

ブロムシュテットの音楽は他の指揮者ではあまり見かけない独特の感性を持っている。フレージングは昔ながらのドイツ的なやり方の範疇で推移している。古典派とロマン派で取るべきフレーズの長さが違うが、ブロムシュテットは明確に描き分ける。フレーズとフレーズの間にわずかな遊びと呼べる間が取られるようになったが、これによりブロムシュテットの音楽はしなやかさを獲得し、独特のふくよかさにつながっている。

テンポはどうだろう。ここ20年の演奏では感じなくなったが、それ以前は、このくらいの速さならこれくらいが妥当だろうという範囲より、ほんの少し速いか遅いのである。ブロムシュテットの独特のテンポ感覚は常人には理解不能ではあった。今ではそれは消えたが、テンポは完璧に管理されている。曲により速いテンポを取ったり遅いテンポにしたりと、状況により変えている。よくブロムシュテットのテンポは速くなったとは言われるが、それは一面では正しく、一面では間違っている。ベートーヴェンシューベルトのような作品は研究が進み、作品解釈とそれに伴うテンポ設定が大きく変化したのがブロムシュテットの演奏に影響している。ブロムシュテットは最新の音楽学の成果を取り入れて自己の解釈を見直し続けているのである。一方ブラームスなどはテンポ設定は大きく変わっていない。むしろ遅くなっている節すらある。

ブロムシュテットは作品に暖かみを与え、人間味溢れた演奏をしている。シューベルト作品に顕著なのだが、シューベルトの歌曲的なメロディーと主題構成をブロムシュテットはよく理解しているため、それに見合った流麗な横の流れを用意している。私はブロムシュテットが演奏するとどんな作品もシューベルト的になると感じているが、それはブロムシュテットが元々ヴァイオリンを演奏し、自然なフレージングを身につけていたことが影響しているのではないかと思う。

ブロムシュテットは得難い能力を持った指揮者であると思っている。来週からのN響との公演に期待したい。95歳を超えても活躍しているが、無理のないようにしてほしい。