KeiYamamotoの雑記

考えたことや見て聴いたことを綴ります

若き巨匠管楽器シリーズ 吉村結実

あまりの暑さでよろよろと渋谷に向かったが、今日ほど行ってよかったと思う日も少ない。

渋谷のノナカ・アンナホールへ。N響の吉村オーボエ首席のリサイタルを聴きに行った。

70席程の小空間で聴く吉村のオーボエであるが、艶やかで芯の通った音はN響で聴いている時と何も変わらず素晴らしい。違うのは、音に煌びやかな潤いがいつもより強く感じられることである。あまり響かない空間だが、そこに満ちる強い意志に支えられた音は昨年のオペラシティでのリサイタル以上であった。

今日はフランス物が中心であったが、モーツァルトも含めて軽く仕上げることができる曲ばかりである。しかし吉村は最初の《クープランの墓》から一切手加減せずに、質量を持って音楽を仕上げる。ここまで重めに寄ったラヴェルも珍しいかもしれない。今まで吉村は、フランス音楽に向いた軽くすっきりした音色を出す奏者だと思っていたが、よく聴いてみるとフランスに限らず19世紀後半から20世紀前半の100年間に特性があるのかもしれない。

白眉はプーランクオーボエソナタであった。ピアノの長崎と吉村がまろやかで熟れ切った音楽を奏でる。客席の集中が続かないのが残念だが、2人は鮮やかに今日の山場を乗り切った。

アンコールはサン=サーンスの白鳥であった。美しい場面が多いリサイタルであったが、それに相応しい静かな締めくくりであった。

今日は暑い1日であったが、それに好対照な爽やかなリサイタルであった。語弊を恐れず言えば、吉村のオーボエは日本一と言って差し支えない。コンセルトヘボウ管の首席を張っていてもおかしくない逸材だが、そのような人物がN響の首席であることに、一定期会員として感謝するしかない。またこのような機会があってほしいと、つくづく思う日になった。