KeiYamamotoの雑記

考えたことや見て聴いたことを綴ります

ブロムシュテットのブラームス全集

ブロムシュテットブラームス交響曲全集の録音に取り組んだのは、2019-2021年にかけての一度だけである。オーケストラはブルックナーベートーヴェンの時同様、ゲヴァントハウス管弦楽団を起用した。名誉指揮者として共演し続けているブロムシュテットであるが、カペルマイスターの時よりも更に充実した演奏を繰り広げている。録音レーベルはPentatoneで、高音質な上、細部まで鮮明な録音をすることに成功している。

最初の予定では全てライブ録音の予定で、演奏会を3度行うことで、全て録音する計画をしていた。

2019年9-10月

ハイドン交響曲第104番,ブラームス交響曲第1番

ブラームス悲劇的序曲,大学祝典序曲,交響曲第2番

2020年5月

ブラームス交響曲第3番,第4番

上記のコンサートが予定されており、2019年は予定通りコンサートが開かれ、録音された。2020年は完成に向けての大事な時であり、ブロムシュテットも各地で交響曲第3番と第4番を取り上げ、綿密に準備していた。5月のライプツィヒでのコンサートに私も行く予定をしていた。しかしコロナ禍によりコンサートは中止になり、録音も棚上げになった。

翌年の2021年4月に無観客のセッション録音により第3番と第4番は録音され、全集は完成した。しかし第3番と第4番が聴衆に披露されなかったのは残念である。同じ年の11月にシューベルト交響曲第7番,第8番も録音したが、コロナ禍によるロックダウンの影響でブラームス同様、無観客のセッション録音となってしまった。

コロナ禍に影響されながらも、ゲヴァントハウスは高水準の演奏をした。その結晶がCDとなり、聴くことができる。

第1番はかなり驚きの内容となった。ブロムシュテットにしては落ち着いたテンポ(4曲ともだが)で、今まで各地で披露したライブとは趣きが違う。ゲヴァントハウスの音も色鮮やかで、ベートーヴェンの時とは別のオーケストラのようだ。第1楽章提示部を繰り返すのはいつも通り。ブロムシュテットは各地で演奏したのとはまた別の演奏として、解釈を練り直しているようだ。第4楽章まで一本の線で繋がり、コーダに向けて高揚していくのは圧巻。しかしブロムシュテットはいつもと同じくやりすぎない。程々ということを知っている人物だ。ライナーノートにはブロムシュテットシューマンを引用し、人々へのメッセージを寄せている。

第2番となると、かなりシューベルトのような、動機を歌曲のように紡いでゆくやり方が目につく。それが横の安定した流れを生み出し、豊かな演奏となっている。提示部繰り返しはいつも通り実行している。

2つの序曲の完成度が高い。交響曲第2番と同じ時の録音だが、この時のブロムシュテットとゲヴァントハウスはうまく噛み合ったようだ。最高レベルの演奏をここでは聴ける。悲劇的序曲の焦燥感、大学祝典序曲の華やかさは見事。大学祝典序曲はブロムシュテットの持つ明るい音とゲヴァントハウスの整った音が曲の内容にピッタリである。低弦から高弦まで安定したアンサンブルが成立し、突き抜けるような名演を披露する。

第3番はブロムシュテットにしては少し遅めのテンポで始まる。ゲヴァントハウスの清らかな音響を活かし、透明でみずみずしい演奏に仕上げている。木管のソロも際立っている。ブロムシュテットは第3番を得意とするが、このようなタイプの演奏はあまり聴いたことがない。第4楽章第2主題で全曲の頂点が来るように設計しているが、今回はそこまで露骨ではなく、静かな内面の盛り上がりを作り上げている。

第4番の静謐な冒頭はこれ以上の演奏があるのかと聞きたいくらいの完成度。暗く盛り上がってゆくが、一切焦らない。第2楽章はフリギア旋法によるメロディーだが、これを丁寧に仕上げてゆく。ここまで暗く透明な音楽は聴いた事がない。第4楽章になっても雑にはならず、基本通りオーケストラを立体的に鳴らす。

このブラームス全集はブロムシュテットブラームス演奏の中でも異彩を放っているが、音は落ち着いていて美しい。ブラームス演奏の手本を示す、新たな世界を提示している。